2012年11月9日金曜日

みそじ


三十路である。

まさかの三十路である。

自分が三十路に足を踏み入れるとは思っていなかった。
今日は三十路なので仕方ないなと思い、「もう三十路なので帰ります」とメールを投げてやりかけの仕事をさぼって午後休をとって寝てた。きっと三十路じゃあしょうがないよな、三十路じゃあしょうがないよね、三十路じゃあ仕方ないさ! と思われていた。

街に出ると、三十路が歩いてるぞ、とか、しっ、三十路は見ちゃいけませんとか、見ろよ三十路だ石投げちゃえーとか後ろ指を指された。スーパーで惣菜を買おうとすると、「三十を過ぎた方にはお売りできないことになっております」と断られた。二十代の頃からずっと好きだった子に告白すると「切り捨てても三十とかないわー」と嘲笑われた。歩いていると道路際の側溝のそこかしこに打ち棄てられた三十路が転がっているのが見えた。二十代の頃は気付きもしなかった。

途方に暮れていると、ペンギンに声をかけられた。正確にはペンギンの着ぐるみを着込んだ女性で、三十路になると無装備で歩いているのは危ないので、ペンギンとして生活することにしたのだという。聞くと、高齢者にも若者にもなりきれない三十路は、社会からの激しい迫害により今やその個体数も死に絶えつつあるが、そんななかを生き延びた三十路がこうやってペンギンとして生活を営み、今の世への反乱を起こしつつあるというのだ。
「せっかくだから、Varitraさんもどうですか? もう三十路ですし、革命もいいものですよ」
そう言ってペンギンの頭部を外して恥ずかしそうに笑う彼女の表情に、僕はすっかり見惚れてしまったのだった。(続かない)

2012年9月16日日曜日

職種:世界征服/世界滅亡推進業務

この前子供向けの小説を書いていて、世界征服について迷った。 
はじめは適当に、世界征服か世界滅亡を企む敵キャラを主人公たちが倒す話にしよう~と思って書き始めたんだけど、いざ敵キャラを出す段になって、なんで世界征服したいのか全然決めてなかったことに気付いてしまった。 

なぜ世界征服したいのか。 

考えてみれば、僕、29年間生きてきたけど、一度も本気で世界征服したいと思ったことない。そりゃあ中学のときは将来の夢の紙に世界征服って書いたりもしたけど、これは幼稚園児が将来の夢に宇宙飛行士と書くようなもんで、そんなに征服したいわけでもなかった。 
なんで世界征服したいのかわからないので、どうにもキャラが固まらない。 

そんなわけで、面接してみることにした。 
以下の感じで。 

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職種:世界征服/世界滅亡推進業務 
期間:原稿用紙230まで 
定員:若干名 
時給:要相談。社会保険完備。成果によって報酬有。 
備考:子供向け小説の悪役キャラのお仕事です。アットホーム、明るく楽しい職場です。経験者歓迎。やる気のある人募集。 
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世界征服業ってわりと人気あるのか、結構応募者はあった。
それでそれぞれに志望動機を訊いてみたんだけど、なんかピンとくるのがない。 
やっぱり多いのが、「人間が憎いので人間を滅亡させたいです」ってタイプ。 
もちろん、「どうして人間が憎いの?」って訊くんだけど、どうもピンとこない。 

まず地球環境を愛する悪役さんたち。 
でも、「人間は自然を壊し、生態系を破壊する。人間は悪だ!」って言われても、なんかピンとこない。 
エコロジーを気にするあまりに人間憎しになった系って、なんか陳腐なんだよな。現実にも多すぎるからだろうか。就活本にでも載ってんじゃねえの? っていうくらいありふれている。そういうテンプレ人材が欲しいとこもあるんだろうけど、僕んとことは合わないなと。 

次にトラウマを抱えなさる悪役さんたち。 
「過去に人間に酷いことをされた! 人間なんか滅ぼしてやる!」 
そこはもちろん、「どんな酷いことされたの?」って訊くわけなんだけど、「身内を殺された」「迫害された」とかこれもわりと似たり寄ったり。 
エコロジーな悪役たちと違って、このタイプは描きようによっては、きちんと厚みを出せると思うんだよね。ていうかエコロジーな方たちの動機に説得力を持たせようと思ったらグリーンピースの冊子でも添付しなくちゃいけない。 
でも原稿用紙の分量が分量だし、そんな暇ないんだよなぁ。それに過去のトラウマ話聞いてても、正直あんま面白くないというか。
飲み会とかで、「ちょっと俺、世界滅亡させようかと思って」「え、どうしたん? 何かあったの?」ってなったときに、「俺、十年前に子供人間に殺されてさぁ」とか言われたら、あ、そうなんだ、大変だったんだなぁ、としか言えないじゃん。
俺としてはこう、盛り上がりたいんだ。「世界滅亡さしてやるぜ! 人間とか大嫌いでよ! 昔っからの夢だったんだ! さよなら人類!」みたいにこられたら、「おう! 乾杯!」って感じになるし、そういう酒を飲みたい。 
でもなんかこう、ズーンとなっちゃうような感じの方が多くて、んー、なんかいまいちだなーと。 

次に、人間が憎いわけじゃないけど人間は愚かなので以下略の悪役さんたち。 
「人間は下等生物なので、我らが支配しなければいけない/殺して構わない!」 
んー、なんかこれも就活本そのままじゃねーっていう感じがしてなあ。
トラウマ話で暗くなるわけでもないし、子供向けとしていい気はするんだけど、 
「以前はどこにお勤めでした?」「ドラえもんのび太と鉄人兵団です」「ドラえもんのび太と魔界大冒険です」「ドラえもんのび太の日本誕生です」「あ、もういいです。わかりましたわかりました」みたいな感じで、なんかこう。 
なんかキュンとこない。俺も世界征服したいしたい!ってなる子がいない。 
もっと違う子いないの、っていう。 


そんなわけで選考は難航を極めた。なんかいまいちピンとこない。 
世界征服系の名悪役といえば特務の青二才ことムスカさんだけど、「どうして世界征服したいの?」って訊いても、「ラピュタの復活こそ人類の夢だからだ」ってしか答えないだろうし。 
つまり舞台設定と密接に関わってないと魅力生まれなくない? ということであって。 でも舞台決めちゃってるし進行決めちゃってるし枚数余裕ないし。そもそも若干名募集なので部下とか軍隊とかあげられないことに気づいて。 
「あ、世界征服って一人でできますか」って言ったら、「できるかんなもん!」「偉そうにしくさってそんなことすら考えてなかったんかい!」「帰らせてもらうわ!」と大ブーイング。


そんなわけでみんなほとんど帰っちゃったので、最終的に残っててくれた山羊さんに依頼しました。 
「あのう、すみません。一人で世界征服できますか」って訊いたら、「何を言っている? 征服などせずとも既に世界は我が手中にあるのだが」って答えてくれたので、あ、そうか、そうだよね、気は力だよね、ということで決定。 
わりと最後まで引っ張ってもらいました。完成させれたのは山羊さんのおかげです。ありがとう山羊さん。 

2012年6月7日木曜日

三十路の悩み

もうすぐ三十路なので、当然悩みがいろいろでてくる。
 まだまだ若いと思いつつ、やっぱり世間的にはもう歳なんだよなぁという悩み。


 この頃頭を悩ましているのは、飯屋とか旅行先とかのチョイスの話題で、
「何か希望ある?」
 と訊かれたときに、
「希望などない。あるのは絶望だけだ」
 と返すのを、そろそろ卒業すべきなのかなぁ、ということ。
 僕みたいな人間に希望の所在を訊くとか、ネタ振りしているとしか思えないので応えていたのだが、二十代ならまだしも三十代になると、ちょっとどうなのかという気がしてくる。


 たとえば三十歳とか四十歳になった自分が、

Q.「何か希望ある?」
A.「希望などない。あるのは絶望だけだ」

 ってのをまだやってるのを想像すると、なんか哀れな感じがしてしまう。
 服装とか立ち居振る舞いもそうだけれど、若いうちは歳いって年齢に見合ったことができないと、なんか徐々に避けられていくというか。
 どんだけ希望なかったんだ、絶望だけだったんだ、と、シリアスになりすぎてしまいそうで笑えないし。


 でもそこをずっと越えて七十歳とか八十歳になったときに、

Q.「何か希望ある?」
A.「希望などない。あるのは絶望だけだ」

 なんか、これはもう、格好いいと思うんだよな。一体この人はどんな死線をかいくぐってきたんだろう、みたいな感じで。
 この世に生を受け生きることの苦悩とか、人間の業とかが滲み出てて深いし。


 だから安直に、三十路になるからもうやめるより、もっと高いところを目指した方がいいかなとも思うんだけな。でもやっぱり僕ももう苦難な道よりなるべく楽な道を歩みたいと思ってきたし、どうしようかなと。

 三十路の悩みはそんな感じ。
 同じく三十路近くの友人が、そろそろ身を固めなきゃなぁとか言ってるのを聞いて、なんとも楽な悩みだなぁと思った。

2012年3月20日火曜日

服屋で死す

服屋が苦手だ。
 なんであんなに沢山あるのか、わけがわからない。
 今日は会社に履いていくズボン(これをズボンと呼ぶかパンツと呼ぶかもわからない)がへたってきたので、買いに行ったのだが、たくさん並んだズボンだかパンツだかを見ているうちに、死にたくなってきた。なんでそんなにあるんだ。

 僕の服を選ぶときの最優先事項は「無難」だ。ともかく、後ろ指をさされたり、石を投げられたりしなければ、それでいい。できるだけ他と同じで、目立たず、浮かず、あとから会った人が、あれ、あの人どんな服着てたかしら、全然覚えてないわ、と思い出せないくらいが、いい。できれば、あの人どんな顔だったかしら、とか、あの人いたかしら、とか、そもそもまったく知覚してないとか、そういうのがいい。たぶん僕のニーズに合うのは光学迷彩なんだと思う。
 もちろん僕だって人並みに、ちゃんとファッションを考えようと思った時期だってあった。服屋を巡って、値札で選別するのではなくて、まず服と対峙して、魂の語らいをしてみたこともあった。でもよくわからないのだ。一つ一つ違うことはわかるが、何がいいとかどれが好きかとかわからない。とりあえず無難なのが好き、という結論をなんとかねじ曲げ、(俺の好みはこういうのなんだ! こういうのが好きなんだ! これが俺の個性なんだ!)と一着を選んで買って愛でてみようと志すも失敗する繰り返し。
「あなた結局なんだっていいんじゃない! 世間体ばかり気にして、あたしのことなんてちっとも見てくれてないんじゃない!」という服たちの怨嗟。
 そうだよ。おまえを買ったのは世間体だよ。あと値段とサイズだ。俺は無難であればそれでいいんだよ。なんでいちいちデザインがどうとかコーディネートがどうとか考えなきゃいけねーんだよ。なんだっていいんだよ。「酷い!」服たちとのやり取りに心身が摩耗する。

 買った服は部屋の隅に重ねられ、上から取って着て洗濯してまた上に置くスタック構造をしているので一度下に重ねられた服は生涯地を這う。何年かぶりに遺跡から発掘してみるとろくに着ていないのにへたっていたり黴ていたりして大変嘆かわしい。コーディネートも一度決めると気分によって組み合わせるとかできない。異なる n 枚の服のから異なる m 枚の服を選ぶその組み合わせの数は膨大な数に上り、いちいち計算する精神力も評価する指標も僕は持ち合わせない。一度決めたらそれでいく。「いつも同じ格好してるよね」気にしない。洗濯はしてる。清潔が正義だと思う。

 服屋の大量の服に囲まれ、一枚一枚見ているとき僕は、都会の雑踏の只中でひとりぼっちみたいな、とても強い孤独感を味わう。チノ。ノータックチノ。ツータックチノ。細めのシルエットでも動きやすいストレッチチノクロス。タイトながらスタイリッシュに履きこなせるポケットパイピングショートチノ。わからない言語。なんでだよ。なんで何処にもズボンって書いてないんだよ。
 意味不明な亜空間の中で、普通に吟味している沢山の客たち。そしてその中で同じように振舞おうと躍起になっている自分。被服室で二度サイズに合わないなんとかチノに足を通した僕は、なんだかもうここにいることがいたたまれなくなってしまって、何も買わずに逃走した。

 なんかもう、29にもなるのになんなんだろうと自己嫌悪。日本が突然独裁政権になって、ファッションセンスの無い人から順に殺していきますとかいうことになったりしたらどうすればいいか見当もつかない。ケミカルウォッシュジーンズがオタクの印だという知識は2chで見て知っているので、ケミカルウォッシュジーンズを穿いたオタクたちが殺されている間に全力でファッションに関する知識を仕入れるしかないが、果たして生き残れるかどうか。
 興味ない人はこれを買ってね、っていう大量生産の標準服とか作ってほしい。着る人が1〜2割程度までいれば、特に着てても後ろ指さされることもないだろうし。

 もうほんと、いい加減にしてほしい。